この此岸では奇跡に出会わなければ生きることができない。
人間のまま奇跡を手に入れられる成功者は小匙の程度。
ほとんどの人間は人間として扱われない人間社会。
こんな世界に、果たして此岸と彼岸の境目はあるのだろうか。
そんな世界で奇跡に出会えた私たちは、
小匙の奇跡を、願いと共に手に入れられるのだから。
奇跡を得るとともに人間の軌跡は失う。
そんな舞台を人間社会が邪魔をするならば、
私たち、魔法少女のために。
アイヒシュテット某所
街明かりは消え始め、あらゆるものが静まり返る針が重なる頃。
静寂を破る馬の足音があった。
山道を疾走する馬足を聞くのは野生の動物だけではなく、
「対象、予想進路を進行中」
「潔く正面突破か。儚いな、
彼らは修道院の要請で派遣された武装部隊。
それもただの武装部隊ではなく、
こんな世界で魔法などというフィクションな単語を鼻で笑う者も少
しかし、そんな者共はフィクションが身近にあるとも知らず、
フィクションと思われる魔法というのは希望の象徴とされている。
そんな希望の象徴を狩る存在、それが対魔法部隊。
今宵も、希望の象徴が消えようとしていた。
「対象、なおも接近」
対魔法部隊が察知しているのは馬足だけではなく装置が感知してい
近頃は現代技術で魔法少女の反応を検知する装置が出回っている。
その装置は表では認識できない裏の世界で取引されているものであ
こんな事は西側の世界の一部にしか知らされていない事実。
「ポイントまで3、2、1」
閃光が森に広がる。その明るさは、まともに見ていると失明してしまいそうなくらいであった。
「な、なんの光だ」
想定していたポイントで走った閃光は対魔法部隊にとって想定外。
本来であれば魔力を妨害するガスで待ち受けるはずだった。
閃光が収まった頃、
「ポイントに対象を確認できません」
「まさか、魔力は捉えていたはずが」
隊員たちが周囲を見渡しながらおどおどとしていると、
「魔力反応検知!場所は、僧院中心地!」
「魔法少女め、一体いつから」
対魔法部隊が狩る相手、
「ワッカ!濁流と化せ!」
僧院を中心に水が発生し、
大方のものが濁流に呑まれ、
しかしそんな中に僧院を守るようにドーム状の結界が展開されてい
「驚いたね、ピリカの濁流を凌ぐか」
水音を鳴らしながら一人の少女が結界を見ながら驚いた。
先ほど発生した濁流は、
現代社会に魔法へ抗える存在は魔女と呼ばれる化物か、
「僧院の傭兵魔法少女か」
「あの隊員とやらの集団、全く役に立たなかったね」
「そんなの初めから知ってたさ。ここから先は聖域よ。
「傭兵魔法少女が何を言う」
「問答など無用…」
「それはこちらの言葉だ!」
面と向かうのは武器を持たない僧院を襲おうとしている魔法少女1
武器を持たない魔法少女は糸を出したかと思えば収束させて銃持ち
銃持ちの魔法少女が構える拳銃は収束された糸を受け止め、
放たれた銃弾は収束された糸を撃ち抜き、鋭利さを失わせた。
「なかなかやばい魔力弾じゃないか」
追い討ちでレイピアの魔法少女が糸を使う魔法少女へ襲いかかるも
「其の場凌ぎで集められた割には結構合わせられるんだね」
「私たちだって、場数は踏んでるんだから!」
「なら、これを凌げるかな?」
鍔迫り合いが起きる中、
小さな魔法少女は近くにあった車のボンネットを2台分剥がしたか
レールを作り上げる際に発生した稲妻はレールの間でなおも走り続
「まさか、エル、下がって!」
僧院を守る魔法少女たちが下がると同時に、
結界内に逃げた2人の魔法少女は無傷で、
「あら、これは雲行きが怪しいね」
「悪いけど、時間稼ぎをさせてもらうよ」
そう、
僧院の魔法少女たちが狙っているのは時間稼ぎ。
「数分すれば君たちはバッドエンドだ」
「だとしても!」
身を潜めていた水を放った魔法少女が結界付近にいたエルという魔
「何をするのさ!」
エルは熱が入ったからか結界から身を乗り出し、
「ピリカ、そいつの銃弾には気をつけなよ」
「エル!外に出過ぎ!」
「だってモリンガ、2射目は厳しそうだよ」
前へ出たエルへ小さな魔法少女は雷の力で勢いをつけた鉄塊を放っ
その勢いは魔法少女であっても避けるのが難しい程であったが、
「ミランダ、身を晒すことはなかったのに」
僧院へ結界を張っている魔法少女ミランダは僧院入り口へ姿を表し
「本名はお前か」
ミランダへ向けて糸を使う魔法少女が数本の糸を放つが、
「わたしの結界をそんな糸で破れるわけないでしょ」
「そのようだね」
それでも糸を使う魔法少女はひたすら一点を集中して斬り付けてい
そんな中、ピリカとエルは一対一で戦い続けていた。
「アペ、刃となって!」
炎を剣の形にしてエルへ斬りかかるものの、
「ならこれで!」
ピリカは炎の剣で斬撃を飛ばした。
エルはこれを撃ち落とすが、
怯んだエルへピリカは回し蹴りを喰らわせ、
「どれだけ引っ掻き回そうが壊れるはずがないよ」
「そうかい、だけど綻びって一点から生じるものさ、シオリ!」
シオリと呼ばれる小さな魔法少女は小さな瓦礫を周囲に浮かばせ、
そしてついに結界にヒビが入ったかと思えばすぐに穴が広がってし
「そんな、結界が再生していない。
ミランダ、どうしたの!」
モリンガと呼ばれていた魔法少女は、
「ミランダ、あんた穢れはは一切なかったはず」
「モリンガ、エル、ここまでかm」
ピリンッ
ソウルジェムを砕く糸をモリンガは見てしまった。
ミランダは糸が切れた人形のように入り口の壁に寄りかかっていた
「ミランダ!」
「聖域に穢れはまずいじゃない?
希望を奪う側になる前に救ってあげたのさ」
「ジョークのつもりか!」
モリンガは怒りに任せて糸の魔法少女へ斬りかかった。
「カレン!」
「どうした、もっとお前の希望とやらを輝かせてみなさいよ」
モリンガの突きは素早かった。
しかしその突きは糸を何重にも重ねて作られた盾で遮られ、
「儚い希望だな」
カレンは突くために腕を伸ばしたモリンガの懐へ入り込み、
「リズム良く突くのはいいが、
宙に浮いたモリンガが目にしたのは笑みを浮かべているシオリだっ
「スクワレた気分はどうだい?」
シオリが放った無数の瓦礫がモリンガを襲い、
「こんなものか」
その場が鎮まりかえって曇っていた空から月明かりが漏れ出してき
月が作り出した影からエルが現れてカレンの首を切ろうとする。
「アエヤァム!」
ピリカが割り込み、
エルは魔法少女の姿が解かれ、
「悪いね」
「本当よ、対処できたからよかったものの」
「止めてくれるってわかってたからさ」
「カレン、ちょっとは自分でも」
「お話はほどほどにね。人が集まってくるよ」
2人が口論を始めようとするとシオリが仲裁に入った。
「そうだね」
「それではいただくとしようか、
世界の西側では一般人へ徐々に魔法少女の存在が知れ渡り、
そのため、今回のように雇われている魔法少女、
傭兵魔法少女が多い理由としては、
戦争が起きると素質がある孤児へ良い条件を提示しては願いを叶え
世界の西側にとって、魔法少女の居場所というのはないに等しい。
「その聖遺物とやらを使って何をしようっていうんだい?」
少女から魔法少女へ変える存在、
しかしその行動原理は機械的であり、
「わたしたちが聖遺物調査に協力していた経験があることくらい知っ
「確かに覚えているさ。
世界に存在する聖遺物の多くは魔法少女によって生み出されたもの
そう、
「しかしある時、再現は失敗した。それは愚か、
そう、
「君たちがやろうとしている事は、
「魔法少女の連鎖をどうとも思わないのによくいうわね」
ピリカの言う通り、魔法少女には逃れられない運命が存在する。
その連鎖はキュゥべぇにとっては都合の良い事らしくいまだに解決
「
「そして、その成果が実るときがすぐ近くに迫っている」
ワルプルギスの夜
長い間魔法少女たちの間で伝えられ続けた伝説級の魔女のこと
「まあ、魔法少女は常理を覆す存在だ。
「それで、
「前に伝えた通りだよ。次にワルプルギスの夜が現れるのは」
見滝原市
私達はこのワルプルギスの夜が現れるというチャンスを利用するた
そして今、
シオリが嫌う飛行機を利用しないと西から東へ行くのに数十日かか
聖遺物は魔力を使用すれば簡単に検問を抜けられるし、魔法を使えば
その代償は、もう十分味わってきたはずさ。
世界の東側へ到着した頃、私達は異変に気がついた。
それは、
災害が起きている都市へたどり着いた頃には、
「おかしいよ、
「しかも来るのが早すぎる」
「まずは声がする方向に向かうよ」
災害が起きている都市の中間部分へ来た頃、
「うそ、ワルプルギスの夜が倒されただなんて」
「あんな化け物を倒せるだなんて、
「なら、その子に聞いた方がいいんじゃない?」
シオリが指差す先には、
わたしは少女の首元へ手を出そうとすると魔力を感じ取った。
「この子は魔法少女のようだ」
水たまりのうつ伏せたままの少女の体をピリカは起こした。
「ソウルジェムにヒビが入ってる。死にかけだよこの子」
「その子から大きめの魔力を感じる。
魔力というのは放出する量が多ければそれだけ大きな魔力を使用で
これだけ消費しててもソウルジェムが濁っていないという事は、
「一度この街に拠点を構えよう。
「助ける事なら、わたしは躊躇わないよ」
こうして私たちの当初の目的は白紙に戻り、
この都市の名前は、「神浜」という。