次元縁書ソラノメモリー 1-8 あなたは私たちが怖いですか?

近づいてくる生命体の反応を知り、私たちは物陰に隠れていた。

一瞬で体が溶けてしまう恐ろしい灰の中を歩けるとなれば出会った瞬間何をされるかわからない。

次第に足を踏むたびに起きる振動が伝わるようになってきた。一歩にかける重量は大きく、はっきりと足跡がつくのもうなずけるほどだ。

私が感じた生命体の反応はついに建物の隣まで来た。

建物を過ぎようかというところで生命体の集団は皆バラバラと足を止めた。

「其処に居るのは何処の人ぞ」

鼓膜を振るわせずに受け取った声は、確かに私たちへ向けられた言葉だった。

バレてる!

「この暖かさ、なんと久々であろう。そしてこの世界とは違う存在、懐かしくて久々に脳みそを使ったわ」

集団で話しているようで確かに私達にも伝えている。どうしたいのこいつらは。

物陰に隠れているから姿も確認できない。けど、姿を晒すことによるリスクの方が大きすぎる。

隣を見るとまたソラさんが飛び出そうとしてるからなんとかして抑えないと。

人でもない存在に同じ手が通じるはずが。

いきなりブリンクが立ち上がって謎の存在の前に姿を晒していた。

何やってんの?!

「あなた達は何者ですか?話はそれからです」

「恐れはないのか、異世界人」

しばらく沈黙が続き、ブリンクが口を開いた。

「あなたは私たちが怖いですか?」

「ない」

「ならば同じです。わたしもあなた達を恐れません」

話に夢中になっているとソラさんが立ち上がっていた。なんであなた達姿を晒したがるの!

「お互い恐怖心がないとわかったところでお話ししましょ、この世界の人たち」

仕方がないからソラさんが話した後にわたしも姿を晒した。

わたしが目にしたのは2メートルほどある身長と広い肩幅、そして白い毛皮を着込んだ大男が9人いた。

「我らを人と見てくれるのか、我々自体も人の自覚を失いかけていたところだというのに」

「ダメでしたか?」

「悪くはないな」

喜ばしいという感情は伝わってこなかった。もはやこの人たちには、感情という概念が存在しないのかもしれない。

ソラさんが話を切り出した。

「わたしはこの世界のことについて知りたいのです。かつて東西で技術を競い合うだけだったこの世界に、一体何が」

少し沈黙があった後、一番前の大男が話し始めた。

「手短に話そう。全てはお前達のような異世界人から始まったことだ」

この世界二次元移動した人がいただなんて。

「彼女は元の世界へ戻るために未知の力を使い、西の大陸で権力を高めていった」

「やがて彼女は東の素材を欲し、東陸連合へ戦争を仕掛けたのだ。争いを知らなかった我々は、新たな刺激に夢中となってしまい、このような状況を招いた」

「その彼女、というのはどこへ?」

「欲していた素材を手に入れ、我らを実験台として使用した後に異世界へ消えた」

「あなた達は、いったい」

わたしは思わず言葉が漏れてしまった。

「我らは不死の禁術から生まれた化け物。老いることもなければ生み出すこともできない、生きるだけが罪の存在よ」

もうなんと声をかければ良いのかがわからなかった。

同情の言葉や代わりに怒ってしまうことも彼らにとっては無意味になってしまうだろう。

「もっと、教えてもらえないですか?」

ソラさんはさらなる情報を欲していた。

「異世界人、何故この世界の顛末を望むのか。この世界は間もなく無に帰するというのに」

「わたしはこの世界が美しかった頃を知っています。だから、せめてこの世界が確かにあったという記録が欲しいのです。例えどんな終わり方をしてしまっても」

静寂の中、ソラさんは大男から目を逸らすことはなかった。

「そうか」

大男はそう呟くと後ろにいた大男の方へと向かった。

「リーダ、感謝します

そう一番後ろにいる大男が伝えると、リーダと呼ばれている大男はその大男の頭を思いっきりえぐった。

「ひっ!」

ブリンクは思わず叫んでしまった。

この光景に動じない私たちはだいぶこの光景に慣れてしまったんだなと感じた。

しばらく肉をえぐる音がして大男が差し出してきたのは脳みそだった。その大きさは私たちの頭ほどの大きさだった。

「彼女は脳みそから記憶を見る技術を持っていた。ならば、同じ条件のお前達にはこれを渡すだけで十分だろう」

「語っては、くれないんですね」

思念というのは事実を伝えるにはどうしても私念を交えてよく伝わらない。事実を知りたいのだろう?」

伝言ゲームのように伝わる伝説を思い起こせばわかるが、途中で物事を大げさに見せて事実とは異なった内容で伝わることが多い。

そう考えると見聞きしたものが純粋に伝わる方法が、記憶というわけか。

「ではありがたくいただきます」

ソラさんが脳みそをバッグにしまうとブリンクが話し出した。

「あの、その人を殺しちゃったんですか?」

我らは死なない体を手に入れても脳だけは失うと肉体は生きていても動くこと、想いを伝えることが不可能となる」

確かに肉は動き続けていて、血も際限なく溢れ続けている。

「そうやって殺せるなら、お互い殺しあったほうが楽じゃないの?

ブリンクはなかなかエグいことを聞くな。

「異世界人、この世界では救いを乞うために偶像の存在を崇拝している。ある聖者はその偶像からの信託だと語り、人殺しをすると天へ召されることはないとほざいた」

この人は信者なの?違うの?

「我々は長きに渡りその偶像を心の支えとしてきた。そのため人殺しはこの世界に残り続けてしまうという固定概念が根付いてしまったのだ」

「でもあなたは今命を奪ってしまった」

「そうだな。私は天に召されることなく消滅するのだろう。なぜ今までこうしなかったのだろうな」

この時、私は最悪の状況を考えて身構えてしまった。

彼の語りは、初めて知ったことに興味を持った口ぶりだったからだ。

 

1-7←Back page

list:お話一覧

Next page→1-9

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です