この世界に来てどれほど経っただろう。
見渡しても建物だった瓦礫の山と高くそびえたつ石の塊となったビル。
そして、絶対に触れてはいけない白い灰が降り続いている。
ここに来てしまった方法もわからず、戻る方法もわからない。
いきなり目の前で目の前の光景がガラスが割れたように割れて、まぶしい紫の色にびっくりして目を閉じていたら、いつの間にかここにいた。
人は数人見かけたけれど、まともに会話できた人はいなかった。みんな必死で、私も必死だったから。
どうすることもできず、どのみち朽ちることしかできないというのに、生存本能が邪魔をして生きようとしてしまう。
その結果握ってしまったこの拳銃ですでに何体もの命を奪っている。
彼らも必死だったんだろうが、私には関係ない。生きるために必要だったんだから。
こうしてまたお腹がすくまで瓦礫の隅でうずくまるしかない。
「いたっ!」
「って、なによ、これ・・・」
人の声がいきなりして驚いた。
そもそもまともに言葉を発する人自体が久々だった。
いつからかは知らないけど瓦礫の向こう側にいる。
「もしかして飛ぶ場所間違えた?」
「不干渉次元がおかしかったから、変な場所につながっちゃったのかも」
「そんなことある?」
2人いると思われる会話から察するに、きっとこの世界の人ではない。私以外にも紛れ込んじゃう人がいるなんて。
「あるとの交信も途絶えちゃったし困ったなぁ」
「まあ調べるだけ調べてみようよ」
足音が近づいてくる。いざとなったらこの銃で。
でも2人の足音はそのまま外へと向かっている様子だ。どうしよう、このままじゃ2人とも死んじゃう!
忘れてしまったと思っていた良心が咄嗟に反応し、私は銃を握って瓦礫から身を晒した。
「動かないで!」
2人は驚いてこちらを向き、外へ出ることはなかった。
「死にたくなかったらさっきまでいた場所に戻って」
2人が現れたのはこの建物の中心付近。間違っても灰に触れることはない。
1人は怖がった顔で指示に従ってくれたけど、もう1人は表情を変えずにこっちを見ながら指示に従った。まるで銃に慣れているかのようだった。
2人のうちの1人、紫髪の子がまず話しはじめた。
「私たち、この世界のことがよくわからないんだよね。あなたはこの世界の住人なの?」
もしこの世界の住人ならば、何を言っているのかと疑問に思う問いかけだ。でも、私はその質問の意味を知っている。
私は立場を上に見せるため、銃を下ろさずに問いかけに答える。
「いいえ、私はこの世界の住人じゃない。きっとあなたたちもそうなんでしょ?」
「そうなんだ。よかったらこの世界に起きていることを教えてくれない?」
「いや、まずはお互いのことを知るべきだと思う。警戒されたままだとお互いに疲れちゃうよ」
背の小さい子は対等な立場で話したいらしい。
「ごめんなさい、この世界に来てから人間不信になってしまったの。そう簡単に私のことを話す気はないよ」
「そう・・・」
背の小さい子が私の方へ歩いてきた。何を考えているの?
「止まりなさい!私は躊躇しないわよ!」
彼女は歩みを止めず、ついにその額を私の握る銃につけた。
「ソラさん!」
「ちょっと、何を考えて・・・」
ソラというらしい少女は何の躊躇いもなく私に目を合わせて話しはじめた。
「初めまして。私はソラっていうの。
あっちの子が結月つづり。
私たちは訳あってこの世界に今まで来ていたの。
でも不思議なことに世界が一変。辺りが終わった世界のようになっていて驚いているの」
こっちが驚いているよ。
不思議と、私は引き金を引けなくなっていた。
この世界に来て何度も引いてきたはずなのに私の人差し指は動こうとしない。
「私、落ち着いて一緒に話がしたいな」
「・・・」
「だから、銃を下ろして」
私の頭は混乱していた。
イレギュラー、予測不能なことだらけのことを処理できずに私はとうとう膝を折り、うなだれてしまった。
「大丈夫?!」
結月つづりという女の子が慌てて駆け寄り、私を支えてくれた。
この世界に来て久々に味わったこの感覚。懐かしくて目尻が熱くなってしまった。
「ね、ねぇ・・・」
私は顔をあげて答えた。
「ごめん、何もかもが久々で、びっくりしただけだから」
「ならよかった」
結月つづりは振り返ってソラという少女と話しはじめた。
「ソラさんは無理しすぎだよ。何も銃口を額につけなくても」
「まあ心検査するには一番手っ取り早いし。でも撃たれたらどうしようってヒヤヒヤしていたよ」
「やっぱりしてたのね」
「でも信じていたから、この人は絶対撃たないって」
「なんで、初対面の人を信じれるのさ。ただでさえこんな感じの世界なのに」
私の言葉にソラという少女とつづりという人は顔を見合わせてそのあとそろってにっこりと笑い、ソラという人が答えた。
「だって、私たちを信じてほしいなら、まずはあなたを信じるのが大事でしょ」
知らない世界へ飛ばされた私は、元の世界に戻れないという理由でどこか荒んでいたのかもしれない。
でも、いま目の前には元の世界に戻れる可能性がある。
私はこの時、この人たちに賭けてみようと思った。目の前に現れた、微かな希望なんだから。
「なら・・・」
私が口を開くとつづりとソラがこちらを見てきた。
「なら、私も信じてみようかな、あなたたちを」
「もちろんだよ!よろしくね!」
手を差し伸べてきたつづりと手を結び、私は彼女たちと行動するようになった。
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