次元縁書ソラノメモリー 1-2 正夢の噂、ですね

 

料理地区『ヨシペル』

 この地区には食料人、料理人が集まっていて地区の中央にある掲示板には取引内容が提示される掲示板があります。この内容は重複して受けるということが可能であり、取引内容の争奪戦が起きることはありません。
 だからといって食料を必要以上に受け取るというのはナンセンス。
 この世界の食料は、適切な保存方法を行わない限り、一日で光の粒子として消えてしまいます。というのも、ファミニアに存在する物質のほとんどは量子のかたまりであり、物体には時間の経過で形を保てなくなるという変わった概念が存在します。
 そのため、保存方法ももちろん専門の能力をもった者に頼まなければいけないため、かえって手間がかかります。

 そういうわけで、この地区では人が絶えません。

 私たちが向かっているミヤビさんの店の前ではとても慌てた様子のミノと、話に付き合って疲れ切ったミヤビさんがいました。
 ミヤビさん、ごめん。
「ぬぁ~、私っていつもこうやりすぎちゃうかな」
「ミノ、私もう疲れたんだけど。はやくカナデちゃんを探しに行きなよ。こんなところで慌てられてもこっちが困っちゃうよ」
「だめだよ、前に一度謝るためにぶっ飛ばしちゃった子の家に行ったら、入れ違いになってまた騒ぎになってさーあああ!」
「うーん、おちついてよ~」

 相当参っているミヤビさんとミノのところへカナデがすごい勢いで迫っていった。
「ミノ!何が新しい意識の伝達方法さ!伝わる以前に拳を交えないから何もわからなかったじゃん!」
「よかった、やっと戻ってきたね。それじゃあさっそく伝えること伝えるからそこに立っててね」
「は・な・し・き・け!普通に話せばいいじゃないか!」
「今回伝えることは大事なんだよ、他人に知られるわけにはいかないからさ」
「だからって、人を弾道ミサイルにする必要ないでしょ!私たちん家にぶっ飛ばしたのは意図的か?!」
「おお、そこは大成功か」
「勝手に納得すな!」
 二人がコントを始めてしまったので私はミヤビさんのところへと静かに行きました。ミヤビさんの店のカウンターにはメモにあったよりも多くおにぎりが用意してありました。海苔の数はメモ通りでした。
「ごめんねミヤビさん、なんか巻き込んじゃって」
 カウンターへぐでーんとしたミヤビさんが顔だけをこっちにぬるりと向けてきます。
「そらさぁ~ん、疲れたよ。カナデちゃんがメモより多く米を持ってきたらしくて多めのおにぎりを作ってたんだけどさ、外で爆裂音がしたらミノが慌てだして」
 だからおにぎり多かったんだ。
「そーしたらミノと目が合っちゃってさ。ずっっっと!ここで話を聞いていたのさ」
 さ、とミヤビさんの開いた口におにぎりを当てます。
「おにぎり食べて落ち着いて。感情エネルギー結構持ってかれちゃってるみたいだからさ」
 口だけでもぐもぐとおにぎりを食べたミヤビさんは少し元気を取り戻したらしく、カウンターから起き上がった。
 「まあいいけどさ。早くミノを連れて行っちゃって。他のお客さんが困っちゃってるから」
 ふと周りを見渡してみるとミヤビさんの店を囲むようにみんながミノとカナデのコントを苦笑いの表情で眺めていました。確かにこのまま放置するのはヤバい。
 ミヤビさんから多めのおにぎりを受け取り、コントを繰り広げている二人のもとへと向かいました。
「2人とも、落ち着いて朝食としようよ。アルとつづりんも」


 ヨシペルの奇麗な花畑がある中央公園。たくさんの花が植えられた円形の花壇に、ここを飛び回る蝶はさっきまであった騒動で高まった鼓動を落ち着かせるには十分なほどきれいな光景です。
 ここで5人そろっておにぎりを食べていると、ミノが伝えたいことはただ私を呼んできてほしいということだけだったようです。
「ユーカラさんが周りの人へ知られないように、か」
「情報集めが得意なユーカラ、まあ私のパートナーである彼女の頼みだからこの命令を破るわけにはいかなかったんだよ。だったら拳で伝えるしかないじゃないか」
「だからって吹っ飛ばすか普通」
 カナデは落ち着いたようだけど、まだ怒っているようです。
 おにぎりを2個食べ終えたアルは私たちへ提案をしました。
「それならこのまま情報屋さんへ行こうよ。ソラへ伝えたいとはいえ、ぼくたちにはいずれ伝わることだろうし。ぼくたちが付いて行っても問題はないよね」
「ん、まあ彼女はソラさんが所属する多次元目録に用があったみたいだから大丈夫じゃないかな」

 多次元目録

 私たちのチームは『indemention』というチーム名で行動を行っていて大抵の人は多次元目録と呼んできます。
 多次元目録は今まで訪れた世界について記録する書物のことであり、私の力を使って記録を行っているため、いくらでも記録を行うことができ、消えることもありません。時々私の見解を綴ることはありますが、見聞きしたことをそのまま記録しているので間違いはありません。
 別世界へ行ったのはまだ数回ですが、ファミニアの住人にとってこの世界以外に幾多の次元と世界が存在することを知り、興味を持つ人はたくさんいます。
 そのため、これをたまに報酬として要求されるので何冊外部へ出回ったのか分かりません。さすがにそのまんま渡すわけにはいかないので、普通の本として何千部と分けて渡しています。

 ユーカラさんも外の世界へ興味を持つひとりであり、多次元の世界があることは知っている人物です。

「さて、腹も膨れたことだし、ユーカラのとこに行こうか多次元目録の皆さん」

 ミノに連れられて情報屋に来た私たちは、4人で中に入ってもいいか聞きに行ったミノを待っていました。
「ユーカラさんが名指しするってことは、また本が欲しいってことかな」
 つづりんが不思議に思ったのかそう話を切り出すと、答えたのはカナデでした。
「いや、この前本を渡したときだって私たちが情報屋に頼みごとがあったときだよ。情報屋から名指しなんて、この世界ではミノくらいだったんじゃないかな」
 不思議だねーという空気になっていたら、ミノがみんな入ってきてと手招きをしてきました。


 部屋の奥にある水晶の置かれた机の後ろにユーカラさんがいました。
「あ、あの、み、みの、が、めいわ、くを、おかけして、しまい、す、す、すみませ、ん・・・」
 ユーカラさんはこの世界にある噂を水晶を通して収集できる力を持つ代わりに、極端なコミュ障という欠点があります。
「いえ、私たちは気にしていませんから」
 ユーカラさんは一呼吸おいてむすっとした顔をミノに向けます。
「ミノが素直に伝えないから」
「まって、私は素直に命令を聞いただけだよ?!」
 ユーカラさんが唯一スムーズに話をできるのはミノだけです。付き合いが長いからかな。

 私は気持ちを切り替え、真面目に話を切り出します。
「それで、伝えたいこととは何ですか」

「みな、さん、夢、はご、ぞんじ、ですか?」
「うん、ちょうどソラさんが今日見たみたいだよ」
「そう、ですか」
 ユーカラさんがミノに合図を送ると、ミノは両手をこちらに向けてきた。
「ユーカラじゃ伝えるのに時間がかかるから、みんな、拳を繋げあって」
 6人が拳を合わせると、脳にユーカラさんの言葉が響いてきました。
「実は、昨日の夜に突然睡魔に襲われたという人が多数出現したと噂で流れてきました」
 私に訪れた現象と同じ。
「そして、その人たちは皆、夢を見たというのです。その夢の内容ははっきりしていて、記憶に間違いがなかったとのことです」
「それはおかしいですよ。夢はソラさんのように記憶をとどめておける能力がなければメモリーに残ることがないはずです」
「つづりんの言うとおりだけど、そのうわさ話を考えると、第三者の能力による影響が高い可能性があるね」
「私が伝えたかったのはこの噂に関することです。実はこの夢、事実になってしまうのです」
「事実になるということは、すでに夢の中で見たことが実際に起きた人がいるってこと?」
「実際に経験した人からは、話を聞いていませんが正夢を初めて経験したという噂が同時に多く聞くようになりました」
「まさに正夢の噂、ですね」
 正夢になるという結果がわかるまでの間が短いのは気になるけど、正夢だったと実感するには個人差があるってこと?それともただの噂話?


 あれこれ考えているとミノは拳を離し、心の共有は終わりました。
「彼女が伝えたかったことはここまでだね。私たちがこれについて何かお願いすることはないよ。ただ、注意喚起を行いたかったということだけ」

 正夢か。私の見たあの光景も、いつか見ることになるのだろうか。

 私たち4人が情報屋から出ようとしたとき、ユーカラさんが一言アルに伝えている様子でした。まあ、家で話を聞くとしましょう。

「ユーカラさん、情報ありがとうね!」
 多次元目録の皆さんが去ったあと、わたくしはミノに話しかけます。
「ミノ、わざとわたくしの心の一部を遮断したでしょ」
「私はキミの言うことは何でも聞くからね。伝えてって言われたことだけ伝えただけに過ぎないさ。信憑性のない噂を聞かせるわけにもいかないでしょ」
 変に器用なんだからこの子は。
「多次元にわたる異変の始まり、それを伝えていたのがこの正夢の噂の真実であり、この噂の発信源は」
「CPU」
 ミノが少しびっくりした顔をいたしました。
「この世界を軌道エレベーターの先で見守る監査機関。夢をよく知る子からそんな話を聞いた。そして、わたくしもその正夢を見た」

「わたくしは世界の終わりを見ていた。あのソラさんが、仲間を撃ち殺すという」

 部屋の中のろうそくが一ついきなり消えた。あれは因果に変化が起きたときに炎が消える変わったろうそくです。

 多次元を渡る彼女たちならば、知らず知らずに多次元の異変に気付くでしょう。だからわたくしは彼女たちに揺さぶりをかけたのです。

 あの光景が、正夢にならないように。

 

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